企業経営において、事業の成長力とか経常利益とか「質」の部分の評価に加え、事業の大きさという「量」の部分の評価も、企業の社会的な役割・存在感といったものにつながってくるわけで、依然として大切なファクターである。でも、事業の大きさはどうやって測るのか。異なる業種に属する二つの企業はどうやって比較するのか。単純に売上高で比較してよいのか。従業員数か。異業種間での事業の売買、交換が日常化する現代、この問題はより大切になってきているようにみえる。
そこで注目したいのが企業の粗付加価値額である。粗付加価値とは当該企業のオペレーションにより付加された価値の合計であり、売上高から売上原価及び経費を差し引いたものと思えばよい。具体的には税引後経常利益、純支払金利、人件費、賃借料、減価償却費、租税公課の合計となる。企業が多くのステークホルダーズ(株主、融資元、従業員、地主・家主、公共社会など)に対して分配する価値の合計といえる。すべての経済活動の粗付加価値を合計したものがGDPであるので、企業の粗付加価値とは、その企業のGDPへの貢献度とも云えるのである。
日本の全企業、産業について粗付加価値をひとつひとつ計算するのはなかなか骨が折れる仕事だが、さいわいに通産省でつくった「わが国企業の経営分析」という資料がとても便利である。この資料から、二三の発見をご紹介することにしたい。
日本の資本金10億円以上の大企業1659社が捻出する粗付加価値合計額は平成9年度で70兆円、GDP504兆円の14%を占める。このうち製造業は1060社で36兆円、非製造業が599社で34兆円の粗付加価値を産出する。一社あたりでは非製造業の方がはるかに大きく、日本のサービス産業の巨大化は予想以上に進んでいることがわかる。
具体的にみると、スーパーマーケット業29社の粗付加価値は合計で1兆9000億円となり、巨大装置産業である高炉製鉄業8社の粗付加価値1兆8000億円をしのぐ。道路運送業18社の粗付加価値は1兆8000億円で、医薬品製造業40社の合計と同じくらいだ。また電気通信サービス業はたったの2社で4兆2000億円の粗付加価値を産出し日本経済の牽引役である自動車関連製造業25社の粗付加価値4兆4000億円に肩を並べる。
ところで「21世紀型サービス産業」である総合商社はどうか。総合商社9社は年間約1兆円の粗付加価値を生み出している。規模として高炉製鉄業8社の半分強である。非鉄金属製造業33社、水運業18社、航空運輸業5社とほぼ同じくらい。出版・印刷業11社の1.5倍、工作機械30社の3倍である。
総合商社の売上高がきわめて大きい一方で利益の絶対額が小さい。そのため過去において、ある時は総合商社は実力以上に巨大な存在と見られ自信過剰になったり、ある時はその反動で必要以上に過小評価され自信喪失に陥ったように思う。でも粗付加価値でみれば、実態はそれほど巨大でもないし、またそれほど捨てたものでもない。身の丈に応じた社会貢献(粗付加価値の創出)を続けたいものだ。
(1999年5月10日 橋本尚幸)